アクセシビリティとは、普通の人はもちろん、高齢者や、視覚障害者、四肢に不自由のある人すべてが、ウェブサイトなどにアクセスできるようにする事です。そのアクセシビリティについて重要なガイドラインが、最近改訂されました。ガイドラインが国際標準になり、春からは、公共的なサイトは準拠することが条件になりますので、これからアクセシビリティに対応するサイトは増えるでしょう。そんな時、ガイドラインに準拠することにのみ熱中し、根本的なことを忘れてしまう危惧もあります。そんな事にならないよう、記事にまとめてみました。
アクセシビリティガイドラインはどうかわったの?
ここで、ガイドライン(規格)がどのようなもので、どの様に変わったか、簡単にまとめたいと思います。まず、大本となる規格が、JIS規格のJIS X 8341-3:2016「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」です。これが、高齢者や障害者を含む全ての人が、使用している端末や、支援技術(スクリーンリーダー)などに関係なく、ウェブサイトを利用できるようにすることを目的にした規格となっています。
規格名に「2016」とあるように、2016年3月に改訂がありました。改訂された大きなポイントは、国際規格であるWCAG 2.0(ISO/IEC 40500:2012)と一致するように、忠実な日本語訳になるよう改訂され点でしょう。JISに準拠することは、そのまま国際規格にも準拠することになり、独自規格だった個所は、附属書として添付される形になりました。
これに合わせて、総務省「みんなの公共サイト運用ガイドライン」などの各種ガイドラインも改定されているようです。
アクセシビリティガイドラインってどんなものなの?
ガイドラインには61の達成基準があり、それぞれに、
- A(最低限の基準):25項目
- AA(望ましい基準):13項目
- AAA(発展的な基準):23項目
のレベルがあり、この3つのうち、いずれかのレベルが割り当てられています。AAAに準拠するのはかなり難しく、Aはもちろん、AAのレベルの準拠を目標にすることが多いです。
今回の改訂以前からありましたが、JIS X 8341-3の特徴として、文字と背景の間のコントラストに重点が置かれた点があります。AAに準拠するには、少なくとも4.5:1のコントラスト比を持つことが求められています。弱視(ロービジョン)の方への対策です。
以下のような支援ツールを使って、実装時にテストしていくといいでしょう。
カラー・コントラスト・アナライザー2013J
https://weba11y.jp/tools/cca/
ColorTester
https://alfasado.net/apps/colortester-ja.html
アクセシビリティガイドラインをはなれて
さて本題です。ガイドラインに準拠することは、アクセシブルなサイトを作るのにとても重要です。しかし、ガイドラインばかりを気にして、本質を見失ってしまっては意味がありません。まず、あなたは、高齢者や視覚障害者、四肢に障害がある人が、どのようにインターネットを使っているのか、また見たいコンテンツは何なのか、実際に会って聞いた事はあるでしょうか。
高齢者は思わぬところで、ナビゲーションを見失い、ホームに戻る手段がないと迷ってしまいます。視覚障害者は、音声読み上げソフトを使い健常者では聞き取れないぐらいの速度を聞き取り、見出し単位で興味のないコンテンツを飛ばし、必要な情報を取得していきます。
また目が見えないからといってビデオゲームができないとは限りません。音声だけを頼りに、バーチャファイターで連勝する全盲の視覚障害者もいるそうです。また、そもそも全盲の人より、弱視のひと(ロービジョン)のほうが、人口的に多いという現状はご存知でしょうか。全盲の人でも、産まれた時から全盲の人と、途中から見えなくなった人では、まったく認知が異なります。
筆者は、今年で50歳ですが、45歳を超えるぐらいから、小さな文字が読みづらくなり、ああ、これが老眼なのねと、メガネ屋に遠近両用メガネを買いに行きました。それ以前から、目の中にゴミが飛ぶ、いわゆる飛蚊症ももっています。こういう小さな老化を体験すると、アクセシビリティが、人ごとではない自分のこととして考えられるようになります。
実際、すでに若者向けのサイトなど、文字が小さく、コントラストの低いデザインは、読みづらく、拡大して読んだりすることもあります。自然と自分がデザインするウェブサイトの文字サイズは大きくなりました。この記事を読んでいる人のなかには、まだ老化にはほど遠い人もいるでしょうが、誰もが高齢者になることを考え、想像力を働かせてサイトをつくることが重要でしょう。
アクセシビリティの前に重要なことは
ある視覚障害者の方に、ウェブサイトをアクセシブルにするのに一番、大切なことはなんでしょうと聞いたことがあります。その答えは意外なことに、コンテンツに力を入れて欲しいという言葉でした。
いくらアクセシブルなサイトでも、コンテンツに魅力がないサイトには興味がない。コンテンツに魅力があれば、なんとしでも読み取れる努力をするし、それでも読めなければ、健常者に読んでもらって、教えてもらうこともできる。とのこと。たしかにコンテンツが魅力的でなければ、そもそも読む意味がありませんね。
さらに、コントラスト等も準拠しているサイトであっても、ナビゲーションの内容がおかしい、フォームが使いづらい、など、ユーザビリティ上の問題があっては、いくらアクセシブルでも迷ってしまいます。
- コンテンツ
- ユーザビリティ
- アクセシビリティ
上記のような優先順位で、サイトを作るとき考えてみてはどうかと思います。コンテンツはもちろんのこと、ユーザビリティは、アクセシビリティの担保にも重要です。
公共サイトに多いあるあるですが、アクセシブルでユーザビリティも優れているサイトなのに、コンテンツのページにいくと、非アクセシブルなPDFファイルへのリンクばっかりというケース。こういうのが一番、がっかりさせます。アクセシブルなサイトを本気で作るつもりなら、PDFをやめるか、少なくとも読み上げ可能なアクセシブルなPDFにしてほしいものです。
ペルソナの弊害
サイト設計の上流工程で、UXデザインのプロセスが取り入れられ、ペルソナを作ることが多くなりました。確かにユーザー像を明確にするのは、サイトのコンセプトをしっかりとするために必要なことです。しかし一方で、ペルソナから離れたユーザー、特に高齢者や障害者のことを、棚に上げる事になってはいないでしょうか?
ペルソナ視点でサイトを設計した上で、ペルソナから離れ、様々なユーザーにとって、どのような体験を提供できているのかも、検証することは重要です。アクセシブルであることは、UXを向上するのに重要な要素のひとつでもあるのです。Webを発明した、ティム・バーナーズ=リーはこう言っています。「Webの力はその普遍性にある。障害の有無に関わらず、だれもが使えることこそが、その本質である」
ユーザビリティテストのすすめ
話は戻りますが、特に若い制作者や、発注者の方に、実際に高齢者や視覚障害者がどのようにウェブサイトを見たり、聞いたりしているか、是非、体験して欲しいと思います。現状のサイトの問題点を探るために、または、リニューアル中のサイトに問題点がないか確認するために、ユーザーテストを行ってみてはどうでしょうか。
被験者3〜5名ぐらいに、会議室等に来て頂いて、いくつかタスクを与えて、操作をしてもらいます。その時に、操作を発話してもらい、音声と映像で記録し、記録係がつまずいたところなどを記録してレポートにまとめます。
想像とは異なるところでつまずいている事がわかって、サイトづくりの参考になります。
ユーザーテストの詳細については、過去の記事にまとめていますので、参考にしてください。
まとめ
真にアクセシブルなサイトを作るには、コンテンツやユーザビリティも重要であるということがわかっていただけたでしょうか。そして、何事も経験、高齢者や視覚障害者がサイトを見ている、聞いている場面を、体験することの大切さもわかってもらえたでしょうか。
規格もアップデートしたことで、法律も変わり、官公庁のサイトは準拠しなければならなくなり、交通や施設などの公共サイトも準拠が求められます。新年度からそのような案件が沢山うごいているのではないでしょうか?
是非、ただガイドラインに準拠しただけのアクセシブルなサイトを作るのではなく、アクセスした人のためになるサイト作りをしてください。
(担当:小山智久)
キゴウラボでは、ユーザーテストのお手伝いをお受けしております。とくに高齢者、視覚障害者を対象としたユーザーテストは、NPO法人ハーモニーアイの協力のもと、被験者の手配から、テストの実施まで、数多くの実績があります。ぜひお問い合わせください。