「デザイン思考なんて糞食らえ」ナターシャ・ジェンが投げかけた問題について考えてみる。

いまやデザイン思考花盛りの様相です。デザイン思考に疎いグラフィックデザイナーが、デザイン思考に詳しいコンサルタントの前で小さくなっています。いったいどちらが真のデザイナーなのでしょうか?

この状況に異を唱えた人がいます。彼女の名前はナターシャ・ジェン、世界各地にオフィスを構えるデザイン事務所ペンタグラムのパートナーでありグラフィックデザイナー、さらにハーバードやイェール大学、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで教鞭をとる教育者でもあります。

彼女は、2017年のアドビ主催のカンファレンス「99U」で、始めてこのテーマについて語りました。

その内容はAXISのサイトで日本語に訳されたものが掲載されているので、並行して読みながら、自分の思うところを考えてみたいと思います。元の記事は次の記事です。

「デザインシンキングなんて糞食らえ」ペンタグラムのナターシャ・ジェンが投げかける疑問

そもそもデザイン思考って何?という方は、以前、記事にまとめていますので、参考にしてください。

デザイナーでないからこそ知って欲しい。デザイン思考とはどんなもの?

デザインはそんなにシンプルなものではない

彼女が指摘したデザイン思考の問題点は、いくつかありますが、通読してみると、デザインというのはそんな単純なものではないよ。ということだと思います。世の中では、何チャラデザイン、デザイン何チャラが流行で、それに合わせて、さまざまなデザインプロセスが作られていますが、そんな方程式に変数を代入すればデザインができてくるようなものではないというのが、彼女の主張の中心にあると思います。

デザイン思考で使われるデザインプロセスで一番有名なのはスタンフォード大学のDスクールのものです。彼女が「六角形のやつ」といってたものです。これは以下のステップを踏みます。(彼女の記事の中に、図解したものがあります)

  • Empathize(共感):ターゲット、ユーザーを設定し、理解する
  • Define(問題定義):ユーザー視点で具体的なニーズを選定する
  • Ideate (創造): ニーズ解決のためのアイデアを沢山だす
  • Prototype (プロトタイプ): 選んだアイデアを元にプロトタイプを速いスピードで作る
  • Test (テスト): プロトタイプを元にユーザーに対してテスト

この単純な5ステップで、デザインが生まれてくるならそんな簡単なものはないでしょう。例えば彼女は、このステップには、IdeateとPrototypeのあいだに、Crit(分析、批評)というステップが抜けているように思うと指摘しています。Ideateの段階で、ラフデザインを沢山書くのは、今描いているラフが、前のラフの批評になっているからだと思います。こうやってプロトタイプ以前に、デザインのアイデアを、グツグツ煮込む必要があるのです。

さらに、困ったことがあります。有名どこのデザイン事務所が、コンサルティングを主軸にするようになり、「デザイン思考2Dayセミナー」といったようなものを開催しています。受講して、たった2日間でデザイナーになれるのでしょうか?答えは否です。デザイン思考の流れはわかったところで、それをデザイナーとして実践できる力がつくわけではありません。デザインはもっと奥深いものなのです。そして手仕事も大事。ラフ、カンプが書けないと、またプロトタイプが作れないといけません。

デザイン思考より、直感を大切に

いちいちデザイン思考のステップを踏まないでも、デザイン対象の背景を聞けば、自ずと思い浮かぶデザインがあるでしょう。私はこれをデザインの神様が降りてくると表現していますが、オリエンテーションの場で既にデザインが出てくる場合もありますし、数多くのラフデザインを描いた中から選ぶ場合もあります。考え込んだデザインより、最初に思い浮かんだデザインがベストのこともあります。

記事では、医療機器のCTスキャナーを子供たちに怖がられないようにするというテーマがあげられていましたが、実際のデザインは、デザイン思考のステップを踏んでデザインしたそうです。見た感じ普通のデザイナーならオリエンを受けたらデザイン思考のステップを踏まないでも、思いつくよねと思います。この場合のデザイン思考は、デザインするためのものではなく、関係諸方面を説得するための材料作りになっていたのかもしれません。

このように、時と場合によって、デザイン思考は、感覚で作り上げたデザインに、論理的な理由付けをするための言い訳装置になってしまっているかもしれません。デザインに疎い経営層を、デザインの現場に巻き込むためのツールとしては悪くないかもしれません。

付箋だけがツールですか?

昨今のツールには欠かせない付箋。壁一面に付箋を貼り付け、取捨選択やグルーピングしています。

デザイン思考でも同様で、各ステップで大量の付箋を貼り付けます。しかし、これだけでデザインの要素がまとまるのでしょうか。彼女も、この点に疑問符を付けていました。

デザイン思考に限りませんが、この付箋を使った方法、さまざまな意見を集めるのには良いのですが、それらを集約するときに、特異な意見や発言を、排除してしまう傾向にあると思います。デザインは、むしろ特異な意見を育てていって、オリジナリティのあるデザインにするのが重要です。

付箋に頼ることなく、実物見本や、ラフデザイン、生活の中から出てきたものなど、さまざまなものを集めて議論をすべきだと思います。

まとめ

テーマが「デザイン思考なんて糞食らえ」でしたので、デザイン思考をこき下ろす内容になりましたが、時と場合によっては使える場面はあると思います。今回、この記事を書いていて特に感じたのは、デザインの理由、なぜこのデザインになったのかを説明するためにデザイン思考を使うというのは、悪くないんじゃないかなと思いました。感覚的な判断を重要視するデザインにおいて、理論的な説明は、デザインが、現場から出て、経営の場面での判断を要求されるようになった今、デザイン思考のコトバがコミュニケーションのきっかけになると思いました。

(担当:小山智久)

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