最近、新しい言葉に出合う機会が多くなっています。リーンスタートアップに、リーンUX、グロースハックなどなど、西海岸の方からやってきて、日本に着地した言葉に振り回されている感ありますが、これらの言葉の定義を調べていると、いくつか共通の言葉にたどり着きます。デザイン思考(デザイン・シンキング)もそんな言葉の一つです。ここでは、このデザイン思考のスポットを合わせて、新しい言葉の理解につながることを期待して学んでみましょう。デザイナー向けの言葉ではありませんので、普通のひと(非デザイナー)もついて来て下さい。
デザイン思考とは非デザイナーの為のモノ
デザイン+思考で、デザイン思考ですが、これだけだとデザイナー向けの言葉に思えてしまいますよね。ところがそうではありません。デザイナーではない、ビジネス層の人や、エンジニアとともに、デザイナーが普段行っている思考パターンやワークフローを活用してみようという話です。国内では、ソニーやヤフー、日立製作所などが取り上げて話題になっています。リコーはデザインディレクターという役職を作り、デザイン思考のプロセスを使って、全天球イメージが撮影できるプロダクトを作って話題になったのは記憶に新しいと思います。
デザインコンサルティングの会社(もともとはプロダクトデザインの会社)IDEOのティム・ブラウンの書籍やTEDでのプレゼンが有名ですが、その考え方の発端は、1960年代からあったようです。(Wikipediaによる)
デザイナーのように考えるとは
デザイン思考は元々、プロダクトデザイナーの考え方を発端としていますので、Webやグラフィック、UIデザインをやってきた私の方法とは少々異なりますが(それも最近は全くデザインをしていない)基本的なワークフローを箇条書きにしてみましょう。
- 仮説をもとに着想を得る
- 着想をもとにラフを書く(発想する)
- ラフをもとにプロトタイプを作る
- プロトタイプをテストする
- テストで得られた結果をもとに改善の仮説を立てる
- 仮説、プロトタイプ、テストをくり返す
- 結果の良かったプロトタイプを顧客にプレゼンする
Webやグラフィックデザインでは、仮説、プロトタイプ、テストのイテレーション(繰り返し)を、そんなに数くり返す納期はありませんが、その分、ラフは沢山書いて、脳内でシミュレーションします。
このように作っては検証し、改善するというプロセスを、デザイナーだけが行うのではなく、ビジネス層の人や、エンジニアも参加して、チームとして行うというのがデザイン思考です。
様々なデザインプロセス
Wikipediaのデザイン思考の項目や、デザイン思考を扱っているサイトでは、このデザイナーの思考プロセスについて、様々なモノが提示されています。興味深いのでいくつか上げてみたいと思います。記述は直線的ですが、どれもサイクル状に元に戻っていると考えて下さい。
7つのステップ(提唱者不明)
- 定義(define)
- 研究(research)
- アイデア出し(ideate)
- プロトタイプ化(prototype)
- 選択(choose)
- 実行(implement)
- 学習(learn)
5段階プロセス(クリストフ・マイネルとラリー・ライファーによる提案)
- 問題の(再)定義((re)defining the problem)
- ニーズの発見とベンチマーキング(needfinding and benchmarking)
- アイデア出し(ideating)
- 建設(building)
- テスト(testing)
ロバート・マッキムによるシンプルなバージョン
- 「表現―テスト―サイクル(Express-Test-Cycle)」
ニールセングループによるフレームワーク
- 1:理解する(understand)
- 共感する(empathize)
- 問題定義する(define)
- 2:探求する(explore)
- 創造する(ideate)
- プロトタイプを作る(prototype)
- 3:具現化する(materialize)
- テストする(test)
- 実装する(implement)
実践デザインシンキングによる3つのプロセス
- 現状のより深い「理解」
- さらなる「発想」の創出
- 素早い「試作」と検証
Stanford大学のDスクールが提唱する、5つのプロセス
- ・Empathize(共感):ターゲット、ユーザーを設定し、理解する
- ・Define(問題定義):ユーザー視点で具体的なニーズを選定する
- ・Ideate (創造): ニーズ解決のためのアイデアを沢山だす
- ・Prototype (プロトタイプ): 選んだアイデアを元にプロトタイプを早いスピードでつくる
- ・Test (テスト): プロトタイプを元にユーザーに対してテスト
様々目にとまったモノを上げてみました。なかでも最後に上げたスタンフォード大学の5つのプロセスは有名です。しかしどれも基本的には、「着想–試作–検証」の繰り返しである点は同じです。これは開発でいうところのアジャイル開発と発想は同じですから、情報系のエンジニアには受け入れやすいかもしれません。ポイントは、初めから発散的思考を行うことで、選択肢を産みだし、後半はプロトタイピングを行いながら、収束的思考を行い、なにがしかの選択をおこなうという点です。発散したままでは、アイデアはどこに不時着するか分かりません。ちゃんとプロトタイピングーテストを行い、いったんどこかに着陸させるのが、次の発想を生むのです。
デザイン思考×経営が注目を浴びる理由
デザイン思考を経営に取り込もうという需要も高まっているようです。新規事業をイノベーションするときに、デザイン思考のプロセスを使って、アイデアを着想し、試作して、市場でテストする。このような流れのなかに、現場のデザイナーやエンジニアだけでなく、経営者も参加して行うのです。
投資決定権をもつ経営者が参加することで、イノベーションの速度は加速し、他者に一歩も二歩も先んじて製品を市場に投入できます。もともと経営者(創業者)とはイノベーターな存在です。アップルのスティーブ・ジョブスのようにうまくはまれば革新的な製品を作り出すことができます。モノが売れない時代に、経営者みずからイノベーションに参加するのはとても意義があります。しかし、まだまだ、デザイン思考は経営陣から注目を浴びている反面、実際の経営の世界へは普及はしていないようです。大企業より、むしろスタートアップ企業やベンチャースピリッツのある若い企業で実践されているようです。
受託ビジネスでどう活用できるか
一方、経営とは異なり、色々と国内でも成功事例が報告されているのが、事業会社の製品開発の現場での成功例です。デザイナーとエンジニアが、ひとつのチームとなり、作っては検証し、改善することで市場にイノベーティブな製品を投入した例です。文頭でのべたリコーの事例が良い例です。
しかし、私たちのように、受託でウェブサイトをつくったり、広報誌を編集したりという現場の事例は浮き上がってきません。どうしても完成したアイデアをプレゼンすることに慣れてしまって、そのデザインをまとめる過程を、クライアントと共有することができなくなっているのが原因です。
たとえば、ペルソナを作って、カスタマージャニーマップを作成し、サイトストラクチャーをまとめるまでの工程は、できればクライアントを巻き込んで作っていった方が、より現場の意見もくみ入れた、革新的なものができるかもしれません。この工程で、着想–試作のイテレーション(繰り返し)をクライアントと行うことで、一方的なアイデアの提示ではなく、良いモノができるとおもいます。特にサービスサイトや、アプリなどの開発の場合はユーザーニーズを広く共有するためにも、必須かもしれません。
まとめ
デザイン思考(デザイン・シンキング)が、デザイナーだけのものではなく、デザイナーの行う思考プロセスを、ステークフォルダー全員でやってみようということだということが分かりました。その後の記事をよんで、そのデザイナーの行う思考プロセスについて、いろいろな事例を見ることで、共通項に気がついてもらえればうれしいです。今回の記事の目的の一つはプロセスの理解でした。使いやすそうなプロセスをつかって、試してみてもらえればと思います。
事例や、実際の運用についてもう少し詳しく述べれば良かったのですが、自分もまだ勉強の身で、そこまでまとめきれませんでした。事例については、いくつか書籍もでているようなので、参考にしてみて下さい。
一番の課題、受託ビジネスでどのように運用するかについても、考察が中途半端になってしまったと思います。案件によってはIDEOがやっているようなデザインコンサルティングの受注となるであろう、受託ビジネスでのデザイン思考の運用。個人的にはここの探求が一番気になるところです。経営へのデザイン思考の応用もコンサルティングと関係してきそうですから、なかなか奥深そうです。さらに探求を進めたいと思います。
みなさんも、一度、ぜひ非デザイナーを巻き込んで(非デザイナーのひとは巻き込まれて)みんなでデザイン思考を活用してみましょう。
参考サイト
参考書籍