デザインは誤解されています。デザインは、一般には美術の領域と考えられています。しかし、現代のデザインは、美術の領域を超えて、思考方法や、経営手法としても活用されています。
デザインには、大きく分類して2つの領域があります。それは、構造をデザイン(設計)することと、表層(見た目)をデザインすることです。普通、デザインといえば、後者を指すモノだと思います。しかしアートとは違い、目的を達成する仕組みを設計した上で、それを伝える為の見た目を作る必要があります。なぜなら、デザインとは問題解決の手段だからです。
建築の例を考えてみよう
わかりやすい例で、建物の建築デザインを考えて見ましょう。建物の見た目を作る前に、敷地を計測し、住む家族の構成にあわせて、水回り、居間や居室などの間取りを設計します。それが決まってから、外観のデザインを行います。インテリアや壁紙、外壁の建材を選び、カーポートや庭の設計を行って、建築デザインが出来上がるわけです。それを工務店のひとにもわかるように設計図として書き起こし、施工の監督をおこなって、設計通りの家ができているか確認をするわけです。構造のデザインの上に、表層のデザインが作られていることが容易に想像できるのではないでしょうか?
小型の印刷物のデザインの場合、デザインする対象が小さいので、一人のデザイナーが、例えば広告の目的を考え、コピーライターに文章を依頼し、訴求するメッセージの大きさや配置を考え、色彩や造形を駆使して、印刷物をつくっていました。表層のデザインがめだつため、実際には行っている構造のデザインが、見えづらくなっていたのです。
ウェブデザインの場合
しかし、昨今のウェブデザインでは、対象となる画面数が多いため、これらを、分業で行うことが多くなりました。インフォメーションアーキテクトといわれる人が、ウェブサイトのページ構成を考え、どの要素を、どこに、どのくらいの大きさで配置するかを、ワイヤーフレームと言われる設計図で考えます。これをウェブデザイナーが、訴求するメッセージの強弱にあわせて、色彩を考えたり、写真を配置したり、リンクやボタンの見た目を設計して、実際の見た目をつくっていきます。その後、フロントエンドエンジニアと言われる人が、完成したデザインをHTML+CSSでブラウザーで見れるようにし、アニメーション表現をJavaScriptでプログラムして、ホームページが作られていきます。先に挙げた建築の例と、そっくりだとおもいませんか?
商業デザインは、お客様の依頼によって始めるものです。お客様の納得するものを作るためにも、デザインの過程で確認をとって、お客さんの問題を解決するものになっているかを確認したいと思います。その確認を取るタイミングとして、1番よいのは、構造のデザインができた段階で、お客様に確認いただくのがベストです。
構造のデザインですから、成果物(ワイヤーフレーム)は、まだモノトーンの色の付いてない状態です。テキスト等もダミーのままで、写真や文章の入る位置だけがわかる状態です。この段階のデザインをみせられて、最終形態を想像するのは難しいかもしれませんが、訴求したいメッセージが目立つ位置にあるか、お問い合せなどのリンクがわかりやすい位置に配置されているかなどについて、デザイナーと確認してもらえると、表層(見た目)のデザインを行ってからの大幅巻き戻しとならず、プロジェクトがスムーズに進みます。
デザインは問題解決のための手段ですから、そのためには、解決方法の設計があり、その上に見える形にする作業があるということが理解して頂けたかと思います。
デザイン・アーキテクトと、デザイン・クラフトマン
いいちこのポスターや、営団地下鉄の路線図をデザインした、河北秀也氏は、著書「デザイン原論」で、ものごとを総合的に考えて創り上げるデザイナーを「アーキテクトとしてのデザイナー」=デザイン・アーキテクト、すてきな造形を作るデザイナーを「クラフトマンとしてのデザイナー」=デザイン・クラフトマンと、職域をわけて提示しました。
普通の人は、デザイナーといえば、デザイン・クラフトマンのことと思っていたかと思いますが、デザイン・アーキテクトが、コミュニケーションの土台を設計するからこそ、その上に建つビジュアルはコミュニケーションの問題を解決するものになるのです。
ここでは、大規模化しているウェブ制作の現場を念頭において、構造のデザインをする人と、表層のデザインをする人をわけて考えましたが、優秀なプロダクトデザイナーや、ファッションデザイナー、グラフィックデザイナーと言った人たちは、構造のデザインと、表層のデザインの間を、自らのなかで往復しながら、デザインしてゆきます。そのため多分に、結果として評価される表層のデザインが注目され、成果物の本質的な目的である構造のデザインは、デザイナーの秘密のベールのかなで行われていた行為でした。
デザインに参加しよう
しかし、ユーザー参加型のデザインが提唱される昨今、構造のデザインの段階で、デザインの発注者や、ユーザーを巻き込み、設計されたデザインが、発注者やユーザーの問題を解決する方向に向いているか、共に考え、設計し、創り上げることがものめられているのです。各地でデザイナーが主催しているワークショップが盛んなのもそんなところに理由があります。
是非あなたも、デザインの誤解を解いて、デザインに参加しませんか?