文章が上達するたった一つの冴えたやり方

「文章はどうしたら上手になりますか?」
時々、このような質問を受けることがあります。正直言いますと、この手の質問は「右足のあとに左足を出すにはどうしたらいいですか」と聞かれるのと同じくらい返答に困るものです。

これまでは「文章の書き方について参考になるこんな本がありますよ」とか、「やはりいっぱい書いてみることがいいんじゃないですかねぇ」と答えたりしてましたが、自分がどうしていたのかいろいろ思い返し、考えた中で行き着いたのはこの一つ「真似をする」ということでした。

習うより慣れろ、でも習う前に真似しちゃえ

「真似をする」というのは、一般的に名文といわれる作品の文体を真似するという方法もありますが、まずは自分が好きな作者の作品、もしくは雑誌の文体を真似するのがもっとも取り組みやすい方法かもしれません。

文章にはそれぞれ「型」があります。それは文芸物であれ、雑誌であれ。
雑誌『ブルータス』のように本文に限らず見出しまで「ですます調」で統一されていたり、またその見出しが質問文のようになっていたり、など「ブルータスっぽい」とすぐに感じられるのも型ですし、『暮しの手帖』の文体は優しく語りかけるようです。これもこの雑誌を特徴づけているもの。

掲載する媒体や内容によって文体を変える必要は出てきますが、どれか一つでも自分なりの「型」を作るためにも、いろんな文章を真似してみるのも上達への第一歩でしょう。

ちなみに私の場合は池波正太郎さんの文体です。池波さん時代小説家として有名な方ですがエッセイや紀行文も多く発表されています。小説に限らずエッセイでの風景や食べ物(食通で知られている方でもあるので)の描写は、あまり大仰な説明もなく、どちらかというと淡々としていますが、最後に一つ印象づける描写が入っているなど、読みやすく、そして小気味いい。新国劇の脚本家だったからなのだろうと思っていましたが、池波作品の文章表現の特徴は「文章や段落はなるべく短くしていること」と「鬼平犯科帳」の何巻目かの後書きに書かれているのを読みました(借り物なので失念しましたが)。あるエッセイ集に収録されている「小鍋立て」の項目を写してみて、「なるほど」と納得。以来、原稿を書く際は常に意識するようにしています。

それでも頼りになる文章術本

とはいえ、ただ真似をするだけでは、文章そのものを自分のモノにすることはできませんし、そこは文章技法についてもやはり身につける必要も出てきます。そのために文章作成に関する本はいろいろ読みましたが、今でもときおり目を通しているのが以下の2冊です。

「日本語の作文技術」 (本多勝一著)

物書きにとっては教科書のような本で、1976年に刊行されて以来、改訂版を含めてずっと読み継がれている本で、係り結びの法則や句読点の打ち方などが、詳細にかつ論理的に解説されているその名の通り「技術本」。著者の本多勝一さんは朝日新聞の記者から編集委員になった方でもあるのか、実用的な文章で報道記事を書くにあたっての論理的な作成方法について説いています。

※ちなみに、最初は朝日文庫本版で読みましたが、そのあとに出た講談社の新装版が読みやすいです。それより読みやすいのは簡略版ともいえる「中学生からの作文技術」(朝日選書)です。

「[プロ編集者による]文章上達秘伝スクール壱 『秘伝』」 (村松恒平 著) 

編集者の村松恒平さんが発行している メールマガジン「プロ編集者による文章上達<秘伝>スクール」に寄せられた質問とその回答が集められたもので、気になっていることが拾い読みできるので、ちょっと悩んだときに該当箇所を読むと少し気が楽になります。

最近では以下のムックです。

暮しの手帖別冊「暮しの手帖」初代編集長 花森安治 (暮しの手帖社)  

名前だけは存じ上げていたのですが、本当はどんな人だったのか知りたくなり手に取った本ですが、その中にたった2ページだけ「文章教室」という項目がありました。花森氏が編集部員に語った文章訓練法についてや、語録などが紹介されています。「文章は見るものでもあり、見て快感がなければならない」という考えを持っていたとのこと。そして花森氏自身も、森鷗外や夏目漱石などの名文を大学ノートにびっしりと書き写していたそうです。

とにかく書いてみる

さて、この記事は前回書いた「初めてのインタビュー記事作成で知っていると便利なこと」の記事と同じくらいイバラの原稿です。正直、これまで自分自身で「うん今回はOK」と自信をもって言える原稿はあまりなく、もっとこんな風に書けたんじゃないか、適切な表現があったんじゃないかと思うことが多いです。とはいえ文章に関する仕事を選んだ以上、「伝える」「表現する」ということはどんなことがあっても文章で表さないといけない。

決して手っ取り早い方法ではないですが、「真似する」ということは、とにかく書いてみることへの第一歩なのかもしれません。真似したものを吸収して、自分なりの「型」が見つかってくると、自分の文章が上達したと思えてくるでしょう。

※文中にて紹介した書名、著者名等に間違いがあり修正しました。大変失礼いたしました。(2016/12/28)



(担当:村山ひでこ)