Webディレクター必要なのはヒアリング力よりインタビュー力

Webサイト構築に限らず、制作物の始まりはお客様がどんなものを希望しているのかお伺いする工程(要件定義)が付きもの。この段階でどれだけ希望していることを聞き出せるか、それによって見積り額も、そのあとのスケジュールや作業工程がかなり変わるものです。でも中には口の重いお客様が多いことも。そんなとき、必要なのは単に御用聞きのように聞くだけではなく、自分は「阿川佐和子さんになったつもり」で相手の話を聞き出すインタビュー力なのです。

「ヒアリング」より「インタビュー」が必要な理由

 この記事を読んでいるみなさんの場合、会社または個人の場合でも、聞き出すことをフォーマットにまとめた「ヒアリングシート」を用意されていることと思います。

ヒアリングシートには必ず聞いておきたいこと、目的や予算、公開希望日などの項目以外にも会社の特徴、Webの目的などの項目もあると思いますが、そのままヒアリングしていくと、こんな言葉が返ってきたということはないでしょうか。

「ウチの会社はあまり特徴を言えるような大したことをやってなくて…」

大したことをやってない…
特徴がない… 

その言葉を聞いて、目の前にいるお客様が遙か彼方の遠くに霞んで見えた覚えのある人も多いでしょう(私もその一人でした)。

こう言われてしまっては、ヒアリング項目から離れて、インタビューして聞き出すしかありません。

ヒアリングとインタビュー、同じように質問する行為なので違いはないように思いますが、目的が少し違います。
ヒアリングはお客様の要望や目的を聞き出し、把握しておきたい項目・内容を明らかにしていきますが、インタビューは、相手との会話の中から情報収集することが目的です。会話の内容によって得られる情報の最終形態は変わる場合もあります。

例えば

  • どんな事業を行ってきたか(沿革の一つひとつを追いながらこのときどんなことがあったのか聞き出す)
  • その事業にとりかかった社長の思い、そのときの社員の様子
  • 製品の特徴、どんな開発・制作があったのか、その経緯
  • (クライアント会社には)どんなお客様が多いのか、お客様の反応はどうなのか

などなど、ヒアリング項目にはないけど聞いてみたいことなどを一つずつ聞いていくことが必要になってくるのです。

インタビューをすすめるために必要なこと 

「さあそれではインタビューしましょう」といっても不測の事態がおきやすいのも事実。
前述のように口の重い人もいますし、初対面の相手に気軽に話してくれる人もなかなかいません。
反対に一方的にしゃべられて、こちらが聞きたいことが聞けなかったということもあります。
通常の会話では問題ないのに、いざ面と向かって話を聞こうとしたらどんなことを話していいのかわからないことも。
そこでインタビューを進める上で、覚えておくといい簡単なヒントを私自身の体験からご紹介します。

雑談から生まれるヒント

お客様の時間があまりとれない場合は仕方ないかもしれませんが、最低でも1時間、できれば1時間半くらいは時間を確保しておきたいものです。

なぜならここで重要なのが「雑談の時間」だからです。

最初の数分はヒアリング項目とは関係ない話をする(初めて来た地域なら素直に「初めてきたところなんですが周りは工場多いですね」とか)、ヒアリング項目を聞く前に少し雑談時間を設けるとその後の質問のヒントが出てくる場合があるものです。

質問につまったときは振り返る、オウム返しをする 

一番焦るのはこういうときかもしれません。相手の話を真剣に聞いていて次の質問が思い浮かばない、用意していた質問が出てこないなどなど。
そんなときは「ちょっと整理させてくださいね」といいながらメモを見返してみましょう。
ちょっとここもう少し聞きたいなと思ったことを「すいません、ちょっと話戻りますが、この部分、もう少し詳しく聞いてもいいですか…」と思い切って尋ねるのも方法です。
そこから話が弾むことも多いです。

また相手の言ったことに対して、繰り返し聞く「オウム返し」法で話が進みやすくなることもあります(この訪問前に、NHKのあるコント番組で「女子アナ合コンのあるある風景」的な内容のコントで知った手法を早速利用)。

「この製品は東南アジアで需要があるんです」
(ここで「そうなんですね」と言ってしまうと話はそこでストップ)
「え?東南アジアですか?」
「そうなんですよ、小型の浄水装置だったので…」

これは実際に水の浄化装置を作っているお客様との会話の中でのこと。

「うちに特徴はない…」と言いながら、最後には「うちの会社の装置は小型だから海外に持っていけるんです」と自慢げに、一番の特徴を社長自ら話しだしました。

 聞き返すと失礼では?と思われるかもしれませんが、あとで「何だっけ?」と思い返すよりはその場で聞いたほうが良いです。

話に共感する

あらかじめ質問事項を用意して、それに従って話を進めていくのは単にアンケートに答えてもらうのと同じ(もちろん少しは用意していきますが)。インタビューは聞き出さないといけないので、相手の話に共感する「うわーそれ、大変でしたねぇ」「それ、おもしろいです。その後どうしたんですか」と言うと相手も話しやすいものです。何しろお客様はあまりインタビューされることなんてあまりないですから、緊張されている。それをほぐすようなことも大事です。

つい言ってしまう「なるほど」は要注意

「そうなんですか」「なるほど」という言葉は相手の言っていることに理解を示すのに便利な言葉ですが、安易に使うとそこで会話がストップしてしまうことも。
そんなときは上述のように、オウム返し法などで深掘りしていきましょう。
もちろん、納得できた場合は「なるほど、理解できました」とはっきり伝えてください。

デザイナー・エンジニアにとってもインタビューは必要

「インタビュー」は何もお客様に対してだけではなく、チーム内においても必要なこともあります。

制作においての齟齬がないようにすることはもちろんですが、話をきいてきたディレクターに対してデザイナーであればデザインのヒントがそこでつかめるかもしれませんし、エンジニアであれば効率のよい構築方法を提案できるきっかけになるかもしれません。

知らなくて当たり前。相手を理解するためのインタビュー 

インタビューすること、質問することは相手に対して理解を深める手段であり大事なコミュニケーションの一つです。

「いろいろ聞くと失礼では?」「何も知らない人間に思われるのでは?」と思ったしまうものですが、初めての相手に対しては当然知らないことが当たり前。事前調査でもわからなかったこと、不明点を聞くのはもちろんのことですが、よりお客様理解を深めるためにも、「ヒアリング」から一歩進めて「インタビュー力」を発揮して、その後の制作を円滑に進める第一歩にしてください。

参考文献:

聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)
阿川 佐和子  

大ベストセラーになった話題の本なのでご存じの方も多いと思います。
本文内で紹介した「オウム返し」法も書かれていますし、そのほかインタビューで使えるさまざまなヒント満載です。

(担当:村山ひでこ)