実は、私、20代のころ、カメラマンをやっていた時代があります。時代はフィルム全盛期、重い機材を担いで、百貨店の物撮りをしたり、建物の外観を撮ったりしていた記憶があります。使うカメラは中型カメラか、大型カメラ。プロしか使わない機材を使っていました。
時代は流れて、いまやデジタル全盛期、フィルム時代の知識では、まったく歯が立ちません。カメラの種類も増えたし、いまやスマホのカメラの性能も劇的に上がって、一億総カメラマン時代になっています。
プロの世界もずいぶん変わったようです。Row(受光素子が撮影したままのデータ)で撮影し、パソコンのなかで現像して、さらにレタッチをして納品するのが当たり前になっているようで、撮影して現像所に預けたら、あとは選んで、納品するだけだった時代とは大きく様変わりしました。
今回は、一眼レフ、ミラーレス、コンデジ、スマホとさまざまあるカメラのなかで、広報誌やオウンドメディアに掲載する写真を撮るうえで、カメラにあまり慣れていない担当者でも使えるカメラはずばりどれかということを紹介したいと思います。
カメラ選びのヒント、被写界深度とは
被写界深度とは、簡単にいうと設定した絞りの値で、ピントの合う範囲のことをいいます。たとえば、f11に設定し、1.5mのところにピントを合わせたとします。その時、35mmのレンズの場合、1mから2mの範囲にピントが合います。
もし、f16まで絞って、2mちょっとのところにピントを合わせると、手前は1.5mから、奥は無限大までピントがあうようになります。この状態をパンフォーカスといいます。
基本的に被写界深度は、広角レンズのほうが広く、望遠レンズは狭くなる傾向があります。そのため、望遠レンズでは、絞りを開いて、逆に被写界深度を狭くして、被写体を浮き上がらせるために背景をぼかした写真をとることができるのです。
この被写界深度、写真の像がうつる受光素子(CCDやCMOS)の大きさによっても大きくかわるのです。ここが、カメラを選ぶポイントになるのです。
受光素子の大きさと、被写界深度の関係は?
受光素子が小さくなると、被写界深度が深くなります。望遠レンズで絞りを開放にしても、背景がぼけないということです。一方、受光素子が大きくなると、中望遠やマクロレンズなどでも背景をぼかして撮影することができます。
ダブルレンズを搭載したiPhone7Plusや、ライカのダブルレンズを搭載したHUAWEI P9のようなスマートフォンは、小さな受光素子にあわせて望遠レンズを搭載し、さらに電子的に加工して背景をぼかした写真をとることができます。ただし、あくまでも擬似的なものなので、被写体に文字があると背景と一緒にぼけるなど、使い方には工夫が必要です。
解像度と、画像サイズについて
iPhone7のカメラで、解像度1200万画素、画像サイズは4032×3024です。印刷を想定して、350dpiにしてみると、大体A4全面のサイズが印刷可能になります。しかしいくら高解像度でも小さな受光素子に詰め込んだ画像、A4フルサイズの印刷はギリギリでしょう。その半分ぐらいのなら使えるかなというのが印象です。
スマートフォンですらこの解像度、画像サイズですから、理論上は、これから説明するカメラはすべて印刷でも使うことができるわけです。しかし実際には、受光素子の大きさによって、光を余裕もって受け取って撮影できているかがかわり、写真の階調の豊かさが異なります。カメラがかわると、同じ被写体でもその写りは違ってくると思います。
受光素子サイズ別 カメラ選び
ここでは受光素子の大きさ別に、カメラの特徴を解説してみましょう。あなたにあったカメラが見つかるかも知れません。
スマホ(iPhone 5s・6・7):1/3型
7になって、手ぶれ補正がつくなどカメラ部分はかわりましたが、受光素子の大きさはかわりません。1200万画素の解像度を持ちます。先ほどのべたようにPlusのような望遠レンズ+アプリによる加工というギミックを使わないと、背景をぼかした写真はとれません。
廉価版コンパクトデジカメ:1/2.3型
昨今のコンパクトデジカメの主流サイズです。スマホのカメラに押され気味ですが、地味に存在感はあります。広角から望遠まで画角をかえられるのが、スマホとの違いですが、望遠にしても受光素子が小さいので背景をぼかすことはできません。
高級コンパクトデジカメ:1/1.8型
高級コンパクトデジカメで採用されることが大きいサイズです。高級機となると、絞りやシャッター速度を自分で設定して撮影することができるものが多くなります。しかし絞りを開放しても受光素子が小さいので背景をぼかすことはできません。
マイクロフォーサーズ:4/3型
オリンパスやパナソニックのミラーレスデジカメで採用されているサイズです。レンズが交換できること、絞りやシャッター速度を自分で設定できるなど、一眼レフのような使い勝手と、ミラーのないことによるコンパクトさを実現しています。プロでもサブカメラに採用している人がいるくらいで、広報カメラの候補としては、まず第一番にあげてもよいのではと思います。このくらいになってくると、受光素子もそこそこ大きくなるので、背景をぼかした写真も撮ることができます。しかし後に述べるフルサイズに比べるとそのボケ具合は弱いです。
APS-Cサイズ
ニコン、キャノン、ペンタックスなどのだしている、アマチュアを対象とした一眼レフカメラの受光素子です。昔フィルム時代にカセット型のコンパクトカメラがあり、そのカメラのフィルムサイズにならって、APS-Cといいます。フォーサーズより2回りぐらい大きい受光素子をもち、背景をぼかした写真はもちろん、高解像度の受光素子に余裕をもって光があたりますので、写真に奥行きがある、豊かな写真を撮影することができます。一眼レフですから、レンズ交換は当然可能ですし、絞りやシャッター速度も自分で決められます。一方、受光素子が大きくなったことと、ミラーがあることで、少しコンパクトさに欠けます。特に、ニコン、キャノンはレンズ内手ぶれ補正にこだわっていますので、レンズもでぶっちょです。本格的な写真を必要とする広報業務なら、選択肢として多いにあるでしょう。最近は、コンパクトなAPS-Cのミラーレスカメラも出てきています。
35mmフルサイズ
フィルム時代の35mmカメラのフィルムサイズと同じ大きさの受光素子を持つカメラです。プロが使っているのはこのカメラです。同じ解像度でも、受光素子が大きい分、豊かな階調で写真を撮影することができます。印刷でも、A4見開きを余裕で対応することができます。当然受光素子が大きいので、背景をきれいにぼかした写真を撮影することができます。問題はそのお値段。受光素子の大きさ=カメラの価格ですので、フルサイズのカメラは結構な値段がします。広報用に経費で落とすのはちょっと無理があるかもしれません。
結論、広報用カメラとして最適な1台は?
個人的な見解として、第一候補は、マイクロフォーザーズのミラーレスカメラを挙げたいと思います。僅差でAPS-Cのデジタル一眼が続く感じです。
マイクロフォーサーズは、ボディ内手ぶれ補正を採用していて、その為レンズがコンパクトで取材に行くとき、荷物になりません。また、プロカメラマンの横で撮影しているときも、デジイチだと、まるで相手の仕事を犯しているような感じになりますが、フォーサーズだと、あくまでも押さえだよという感じでとれますし、A4フルサイズまで印刷に耐えます。小さなカットならなおさら十分です。
レンズ交換や、絞りやシャッター速度の設定、背景をぼかした写真から、パンフォーカスの写真まで、写真の醍醐味は十分得られますから、持って出るのが憂鬱になる、大きいデジイチより、コンパクトなマイクロフォーサーズを選択してみてはいかがでしょう。
そもそも広報の写真で、背景をぼかした写真が必要になるシュチュエーションが頻繁にあるかというとそうでもないと思います。むしろパンフォーカスの写真のほうが求められるのではないでしょうか。その辺も判断のヒントになりそうです。
(担当:小山智久)